ソウルからバスで約3時間、チョロン(鉄原)という地で、「平和を願う」サマーフェスティバルの一環として、トライアスロンのレースが開催された。チョロン市は、稲作が盛んで、実にのどかな田園風景が広がる街であった。しかし、北緯38度線・非武装地域に隣接しているため、所々にゲートがあり、武装した政府軍の兵士がところどころで警備に配している、まさに重々しい雰囲気の街でもある。 とは言え、レースのゴールゲートとなる、このフェスティバルのメイン会場ステージでは、歌って踊っての様々なプログラムが組まれ、周りには屋台も出て、夜までおお賑わいだった。レース前夜の22時30分頃の打ち上げ花火には、既に寝入っていた自分も起こされ、ちょっと勘弁という感じであった。国境隣接という場所が場所だけに、何事が起こったのだろうと、一瞬は緊張と共に驚いた。 レース前夜には、メインスポンサーの潟Oレミの会長が、日本人選手・エリート韓国人選手・ボランティアの他、各社スポンサーの為にパーティーを開いてくれた。この会社で作っている特許を取得している天然茶・火傷によく効くクリームなどの商品説明・工場見学があり、次いでパーティー会場に案内され、招待選手席につくと、会社紹介のビデオ上映・市長挨拶・同社会長挨拶など数名のVIPのご挨拶が続いた。約1時間が過ぎ、いよいよ美味しい韓国ビュッフェが始まった。 ビュッフェパーティ後そそくさとホテルに戻り、競技説明会へ直行した。日本語による説明会は19時から組まれていて、その後に韓国語の説明会という気配りようには感服。日本語通訳のスタッフも大勢いるので、総合的にも地元選手には申し訳ないぐらいの日本選手への気遣いを感じ、日本の国内大会の英語以外の言語対応の必須を痛感した。
午前9時、約480名の参加選手が一斉にスタート。選手と選手の間を上手く見つけることができ、スタートからバトルはなかった。900m・200m・900mの三角形のコース。スイムコースは貯水池なので、勿論波も、潮流もなく、水温を低く感じることも無く泳ぎやすかった。しかし、前日まで2日間の大雨でトランジッションエリアはその周辺まで、ドロドロ状態(実は、よく止んだなと思うほど本当によく降った)。 バイクコースはほぼフラット、10%の上りはあるがそれほぼ長くはない。コースルートは田園風景を通るが、国境警備隊のいるゲートをくぐったり、軍事訓練所の横を通過したり、やはり「のどかな田園」だけではなく、韓国ならではの重々しい風景も目に付いた。兵士たちも、我々が通り過ぎる時には声を出し応援してくれる人、敬礼してくれる人と、十人十色であった。普段は進入禁止のエリアにもバイクコースが含まれていた。前夜の競技説明会でも、「この辺りでのトイレには気をつけてください。あまり草むらの奥には行かないように。地雷があるかもしれませんので。」と冗談っぽく説明があったが、これは冗談ではなかったのかもしれない。ゲートの横には地雷の見本もおいてあったくらいだ。 ドラフティング禁止とは謳っているものの、単独走行をしている選手は上位の数人だけで、ほぼ皆ドラフティングを犯している。先頭交代の合図まで出しながら回しているのには、「ドラフティング禁止!」と叫びたくなった。私は、いくつかの集団に抜かれたが、ドラフティングだけは避けた。自分に続く(女子)2位の選手も単独だったが、3位の選手は4~5人の男子選手に囲まれ、徐々に自分との差を詰めてきているのが分かった。60km過ぎたところで女子2位の選手が女子3位の選手のいる集団に吸収された。どうしても「90kmゴールまで逃げ切りたい!」というモーチベーションで70kmまでは単独走行。安堵するもつかの間、暫くして私も吸い込まれた。とは言っても、自分は極力ドラフティングを避けて走った。ドラフティングせずに走破するには、「先頭を引くしかない!」というのが自分の拘りであり女の意地ゆえ、そこからは100%とは言えないが常に先頭を引いた。女子1~3位は、同時にバイクフィニッシュ。 ランニングは片道3.5kmの折り返しコースで、同じルートを3周回だ。私とある米国選手が同時にスタートした。1周目は、二人で抜きつ抜かれつお互いに譲らない。下りで前に出たり、上りでペースを上げたり揺さぶってみたが、ついてくる。このまま3周回並走は非常にきつい。どうにかして引き離したい。すると、次第に相手の呼吸が乱れてきたのが聞こえた。2周目に早いとは思ったが、いつも出ているレースの半分の距離、出し惜しみをしてもしょうがないと思いペースを上げた。気が付くとだいぶ差がひらいていた。3周目は、給水が上手く取れず少しペースが落ちてしまい、胃痛にも見舞われ、吐き気さえも襲ってきたがが、1位をキープしゴールテープを切ることができた。 「優勝!」だ。暫く優勝からは遠ざかっていただけに、久々に頭上に掲げたゴールテープの心地よさを堪能した。正直、スタート前から優勝を狙ってはいたものの、本番は何があるかいつもわからない。途中くじけそうにもなったが、鉄原の方々の熱い応援のお陰で、くじけずに走り続けることができた収穫は大きい。反省点としては、短いのだからもっと「初めから攻めて行きたかった。」という点だ。その点では、満足のいくレース内容ではなかった。
優勝を狙ったレースで、自らが望んだレースができる環境にいる事、そしてそれを応援してくれる人々が沢山いる事にあらためて幸せを感じ、いっぱいの感謝の気持ちを胸に秘めつつ、仁川空港をあとにした。 【記録】 日時 2008年7月27日(日) 9時START 場所 韓国・CHEORWON 天候 曇り 距離 SWIM 2km/BIKE 90km/RUN 21km 時間 4時間54分18秒 (S 00:33:48/B 05:35:23/R 01:35:07) 順位 優勝